学校総選挙プロジェクト

若者の恋愛離れって本当なの?

家族社会学者 永田夏来

若者が「自分のこと」として恋愛に向き合うには

2022年6月14日に内閣府が発表した『2022年版男女共同参画白書』では「20代男性の4割にデートの経験がない」ことや「配偶者、恋人がいない若者が7割になる」ことなどが示され、話題になりました。「若い人たちはたくさん恋愛をし、やがて結婚して子供を持って欲しい」「若者の恋愛離れは社会問題だ」多くの大人たちがこうした発言をしていて、これは一見正しいかもしれません。しかし、私は当事者不在で全く間違っていると思っています。恋愛はもちろん、結婚や出産は自分自身が納得して選んでいく大切なステップであり、本人以外がとやかくいうことがらではないからです。また、恋愛の延長に結婚と出産があるはずだとの前提も、多様な生き方が認められている現在、かなりズレていると感じます。

一方、若者が「自分のこと」として恋愛に向き合いづらいのもわかる気がします。

多くの若い人たちにとって、恋愛はこれまで体験したことのない新しい人間関係に直面するきっかけになるはずです。このため、自分にとって「何が正解か」見極めづらいと感じる人も少なくないでしょう。また、インターネットを使ってさまざまな情報を得られるようになったために逆に混乱し、自分が何をしたいのか見極めづらくなるという側面もあると思います。

こうした状況において、アンケートなどのデータは、自分が置かれている位置を客観的に把握する指針になります。また、その解釈について話し合うことは、恋愛を「自分のこと」として確認し、方針を明確にする効果が期待できます。ここでは「学校総選挙」の投票結果のうち、「あなたにとって大事なものは?」と「恋愛をしていない自分に引け目を感じる?」いう質問に対する投票結果とディスカッションについて紹介をします。このコラムを通じ、読者のみなさんも恋愛に関する自分の意見を見つけて欲しいと思います。

「趣味」や「友人」が大事な人は恋愛に興味がないのか

優先順位

「あなたにとって大事なものは?」の結果を見てみましょう。高校生・大学生・社会人共通で、大事なものとして最も多く選ばれたのは「お金」となりました。何をするにしてもお金が必要なのは確かにその通りなのですが、それを使って何をするかが結局は問題になるはずです。設問は「大事なもの」を3つまで選ぶ形式になっていますので、2位以下の結果を見ていけば投票をしてくれた若者が何を大事だと思っているかに接近できるでしょう。ここでは「趣味」と「友人」に注目して議論をしていきます。

この投票の興味深い点は、高校生から年齢が上がるに従って「趣味」のランクが上がっていくところです。高校生では「趣味」が大事だとしている人は36%で第4位ですが、20才代後半の社会人は51%と半数以上にのぼり、「お金」に次いで第2位となります。これとは逆に、年齢が上がるにつれてランクが下がるのが「友人」です。高校生では「家族」と「友人」は同程度に大事だと評価されてますが、20才代後半の社会人における「友人」は第4位となっています。高校生にとって、主な生活の場は家庭と学校になります。ですから「家族」や「友達」が大事だと考える人が多いのはもっともです。ところが20才代後半になって「友人」よりも大切なものが出てきた時、それが「恋愛」や「仕事」になるかと思いきや、「趣味」が選ばれているのです。

ディスカッションでも「趣味」を大事にしたいという声は多く寄せられました。なかでもなるほどと思ったのは「恋愛を重視している人たちと趣味を重視している人たちはそれぞれ別のグループになっている」「趣味に熱中しているという話は外でしやすいけど、恋愛の話は仲良い相手でないとしづらい」という意見です。若者といっても立場はさまざまで、「恋愛」を重視しているタイミングの人もあればそうでない人もいる。「趣味」を大事だと考えている人も恋愛に興味がない訳ではなく、今の時点で順番をつけると「趣味」が上になるのだ。対話の中から、このような若者の実感が伝わってきました。文章にしてみると当たり前に感じるかもしれませんが、恋愛について「自分のこと」として言葉にできたのはとても重要だと思います。

若者の恋愛離れって本当なの?

恋愛しない自分に引け目を感じるか

「恋愛をしていない自分に引け目を感じる?」に対する投票結果をみていきます。「とても感じる」と「やや感じる」を合算してみると、高校生では35.3%が「感じる」としているのに対して社会人(20代前半)では40.5%となりました。高校生、大学生、社会人(20代前半)と年齢が進むにつれて「引け目に感じる」と回答する人がやや増加する傾向が見られています。周りに恋愛を経験した人が増えてくると、それと比較する形で引け目を感じる人が増えてくるのかもしれません。しかし、社会人(20代後半)ではひと段落するのか、引け目を感じる人は高校生と同程度の割合に戻っています。

このような変化はあるのですが、全体の傾向としては、全ての年齢で「感じない」とする人が過半数となる結果になりました。1990年代ごろに普及した性的なレッテルのひとつに「ある程度の年齢(二十歳ごろ)になるまでに性経験を持たない男性は恥ずかしい」とする考え方があり、当時の若者はかなり強い影響を受けていたと言われています。しかし時代の変化と共に、こうした考えも薄れてきたのかもしれません。ディスカッションでも「引け目は感じない」という話が多く出されました。「恋愛体質ではないので、焦らない」「たくさんの人にモテるのは逆にダサい」「恋愛をしなきゃいけないという空気感自体、あまり馴染みがない」といった意見からは、周りの状況に左右されずに自分自身と向き合っていきたいという力強さを感じます。

データとディスカッションを通じてみえてきたのは、若い人たちは「恋愛」に興味がない訳ではなく、むしろその必要性や大切さをきちんと理解しているという点です。一方、「恋愛」の有無と自分らしさは必ずしも結びつかないと考えているようにも見えます。これは言われてみればその通りで、例えば自己紹介をすることになった場合、恋人がいるかどうかよりも趣味やボランティアなどの体験について話をしてくれた方がその人のことをより理解できたような気持ちになりますよね。自分らしさを大切にしているからこそ「恋愛」の優先順位が下がってしまう。これが若い人たちの特徴の一つなのかな、と私は思いました。

冒頭で示したように、これまで体験したことのない新しい人間関係に直面するきっかけになるのが恋愛です。自分らしさを大切にするがゆえに、そこから一歩踏み出してこれまでと異なる状況に身を投じる体験を怖いと思ってしまう人もいるかもしれません。そういう意味では、若い世代はそれより上の世代に比べて恋愛に関心がなくなったのではなく、恋愛に臆病になっているという可能性があります。あなたは恋愛に飛び込む勇気をどれくらい持っているでしょうか。この問いへの自分なりの答えが、「自分のこと」として恋愛に向き合う道標になるのではないかと思います。

永田夏来プロフィール

永田夏来

家族社会学者

兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授 早稲田大学大学院人間科学研究科修了 博士(人間科学)。若者の恋愛と結婚、妊娠・出産について家族社会学の観点から調査研究をおこなっている。最近力を入れているのはインターネットを活用したコミュニティ形成(シェアハウスや地域おこしなど)と恋愛について。単著『生涯未婚時代』(イースト新書)松木洋人との共編著『入門家族社会学』(新泉社)他、共著多数。

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