学校総選挙プロジェクト

性をめぐる「あたりまえ」を疑ってみる

一般社団法人fair 代表理事 松岡宗嗣

「LGBT」や「LGBTQ+」といった言葉を知っている人はどれくらいいるでしょうか。「聞いたことはある」という人はおそらくたくさんいるでしょう。では「意味まで説明できる」という人、または「自分の身近に当事者がいる」と思っている人はどうでしょうか。

2010年代から、こうした「性的マイノリティ」の人々を取り巻く課題についてニュースやメディアで取り上げられる機会がとても増えました。

自分とは関係ないから受け入れる?

若い世代を中心に関心や受容度も高まっていると言われています。

例えば、2015年と2019年に実施された全国意識調査を見てみると、「同性婚」に賛成の人たちの割合は、全体で51.2%から64.8%まで増加しました。これを20〜30代に絞って見てみると、81%(2019年)もの人々が賛成と回答しています。

他にも、「近所の人」や「同僚」に同性愛者や性別を変えた人がいた場合に、「嫌だ」と思うかどうかという質問に対して、20代は8割以上が「嫌ではない」と回答しています。

しかし、これが「きょうだい」や「(自分の)子ども」となった場合、20代でも約4割が「嫌だ」と答えています。30代以上も同様に、きょうだいや子どもの場合は「嫌だ」という回答が高く、どの年代でも半数以上にのぼるなど、「近所の人」や「同僚」の場合と様子が異なってくるようです。

ここには、自分と関係のない間柄、つまり、近所の人や職場の同僚が性的マイノリティでも別に構わないけれど、家族など自分と親しい間柄の場合は抵抗感があるといった現状が見えてきます。

そもそも性をめぐる「あたりまえ」とは

さらに、10代の性的マイノリティ当事者のうち、学校でいじめ被害を経験したことのある人は半数にのぼるという調査もあり、まだまだ「ホモ」や「レズ」「オカマ」「オトコオンナ」といった差別的な言葉でいじめられたり、ハラスメントを受けている人が少なくありません。

こうした現状のなかで、当事者はなかなか自分自身の性のあり方をカミングアウトすることもできず、生きづらさや困難を抱えてしまっています。

その大きな原因として、社会に根強く残るジェンダーやセクシュアリティに関する規範ーー例えば「生まれた時に割り当てられた性別に違和感を持つことはない」「性別は女性か男性の二種類しかない」「女性は女らしく、男性は男らしく生きるべき」「誰もが異性を好きになる」といったことが「ふつう」や「あたりまえ」とされている現状があります。

こうした「ふつう」や「あたりまえ」からこぼれ落ちてしまうと、学校でいじめを受けてしまったり、親からひどい言葉をぶつけられたり、就活で面接を打ち切られてしまったり、家を借りられなかったり、病院で不当な扱いを受けたり、さまざまな場面で困難にぶつかってしまうのです。

同じ根っこの問題

ここまで聞くと、性的マイノリティではない、多数派の人たちの中には、「性的マイノリティの問題は自分とは関係ない」「性的マイノリティの人たちは、なんだかかわいそう」と思う人がいるかもしれません。

でも、例えば「女らしさ/男らしさ」について考えてみると、「もっと女性らしく振る舞いなさい」「男だから泣くんじゃない」といった言葉は、必ずしも性的マイノリティだけでなく、そうでない人もモヤモヤしたり、嫌だなと思う人は少なくないのではないでしょうか。

性的マイノリティの人々は、確かに特有の「困りやすさ」に直面します。社会の側に、まだまだ分厚い壁があり、辛い状況に追い込まれてしまうことも少なくありません。

しかし、性的マイノリティの人々が抱える困りやすさは、必ずしも当事者だけでなく、実はそうでない人にも関係があり、根っこでつながっている問題なのです。

どう「自分ごと化」できるか

「性的マイノリティの人たちが少しでも生きやすい社会にするために、自分にもできることがあるのではないか」と思う人が若い世代を中心に少しずつ増えてきていることは、とても嬉しく思っています。

だからこそ、ぜひ考えてほしいのが、性的マイノリティの人たちが「かわいそう」だから「配慮をしてあげましょう」ということではなく、当事者が直面する「壁」、つまり性に関する「ふつう」や「あたりまえ」とされている考えは一体何なのか、どうすれば性的マイノリティも含めて、すべての人が安心して生きられる社会にできるかを考えてみてほしいと思うのです。

その際、ぜひ二つの側面から、この問題を「自分ごと化」して考えてみてほしいと思っています。

一つは、性的マイノリティが直面する特有の困りごとを解決するのは、同じ社会を生きるひとりの「私」として考え、行動するという「自分ごと化」です。

残念ながら性的マイノリティは文字通り少数派なので、当事者の声だけでは社会は変わっていきません。同じ社会を生きるひとりとして、一緒に声をあげていくことが大事ではないでしょうか。

そしてもう一つは、性のあり方自体はそもそも多様であり、「自分自身も多様な性のあり方を生きるひとりなんだ」という認識に立つという「自分ごと化」です。

性のあり方はグラデーションやスペクトラムとも言われています。性的マイノリティとそうでない人を完全に分け切ることはできません。前述した通り、「女らしさや男らしさ」など、性的マイノリティを取り巻く課題は、そうでない人が直面する課題とも同じ根っこでつながっています。

あえて疑ってみる

これらの視点から、一人ひとりにできることはなんだろうーーー例えば、日常の会話の中での言葉のチョイス、恋話などで「あたりまえ」や「ふつう」を押し付けてしまっていないか、あえて「ふつう」とされていることを「本当にそうかな?」と疑ってみてほしいと思います。

そして、日頃のコミュニケーションだけでなく、さまざまな「制度」についても「本当に今のままで良いのか」と疑問を持ってみてほしいと思います。

学校の校則や、自治体の条例、そして国の法律など、私たちの身の回りにはたくさんの「ルール」があります。「制服や服装の規定によって生きづらさを感じている人はいないか」「同性のカップルが結婚できないことで困っていないか」「トランスジェンダーの人々が法律上の性別を変えるときにどんなハードルがあるのか」など、その制度が誰かを社会の隅っこに追いやってしまっていないか、制度をより良い方向に変えるために、自分に何ができるか。ぜひ多角的に考えてみてほしいと思っています。

どんな性のあり方であっても、自分が自分のままで安心して生きられる社会とはどんな社会か。ぜひ一緒に考え・行動していただけると嬉しいです。

松岡宗嗣プロフィール

松岡宗嗣

一般社団法人fair 代表理事

1994年愛知県名古屋市生まれ。明治大学政治経済学部卒。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、HuffPostや現代ビジネス、Yahoo!ニュース、文春オンライン等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。主な共著書に『LGBTとハラスメント』(集英社新書)、『子どもを育てられるなんて思わなかった - LGBTQと「伝統的な家族」のこれから』(山川出版社)『「テレビは見ない」というけれど - エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む』(青弓社)

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